地星社のブログ

社会をよりよくする活動を行っている人や組織を支援する宮城の非営利組織、地星社のブログです。

NPOの役割の一つは、社会問題をつくること

 またも物議を醸しそうなタイトルの記事を書いてしまいました(苦笑)

 「社会問題をつくる」というのは、◯雪◯ばぁねっとみたいに多額の使途不明金を出して新聞・テレビを賑わそうとか、そういうことではありません。

 ここで言いたいのは、社会から見過ごされている問題について、NPOこそがそれにいち早く気づき、解決すべき問題として社会に対し訴えかけ、社会問題にしていこうということです。

 社会問題というものは、人々の認識から独立して客観的に存在するものではありません。「これは問題だ」と主張する人がいて、それが社会に受け入れられ、社会として解決すべき問題として認識されることで社会問題となるのです。こうした考え方を、社会問題の社会学では社会構築主義と言います。

 例えば、セクシャルハラスメント(セクハラ)という言葉も概念も、その昔はありませんでした。かといって、セクハラにあたる行為が昔はなかったということではありません。そうした行為が社会的に問題だと見做されてなく、嫌だと思う人がいても我慢するかせいぜいその人が個別に対応するしかなかったのです。それが、裁判に訴える人が出てきたり、マスコミで取り上げられるなどして、社会問題として認知されるようになり、社会としても対策が取られるようになりました。

 セクハラが社会問題化したのは1980年代後半なので、NPOが活躍しはじめるより前の時代のことになります。最近のことでNPOがかかわったようなテーマだと、ブラック企業の問題が代表例として挙げられると思います。若者の労働問題に取り組むNPO法人POSSEなどが繰り返しこの問題を取り上げることで、若者を劣悪な労働条件で使い捨てる企業がブラック企業として社会問題化し、その社会的認知や対策も進みました。このようにNPOの活動によって社会問題として認知されるようになった問題は、探してみるとけっこう出てくるものです。

 もちろん、なんでもかんでも社会問題化させるのがいいことではありません。人権や社会倫理、社会的利益などに照らし合わせて考える必要がありますし、客観的事実がどうであるかも重要です。それでも、社会において「当たり前」とされていることをときに問い直して、これは問題ではないかと社会に対して訴えていく役割がNPOにも求められていると思います。(布田)

NPOの役割・成果は、社会的課題の解決か?

 「NPOの役割(あるいは成果)は、社会的課題を解決することだ」とはしばしば言われることです。もちろん、NPOが社会的課題に取り組み、その改善・解決を図り、成果を上げていくことは重要ですし、地星社もそれを目指して活動を行っています。一方で、NPOがNPOであることの本質は、もう少し別のところにあるのではないかという気もしています。社会的課題の解決は、営利組織でやってもいいし、また行政の役割でもあります。だから、それはNPOが果たすべき重要な役割の一つではあっても、NPO固有の役割ではありません。

 では、NPOだからこその役割は何なのか。NPOとは、ある目的のもとに人が自発的に集まってできた組織です。人が集まり、お互いの力を合わせて何かに取り組む、そのこと自体に価値があるのではないかと思います。しかし、そうした価値はあまり評価されていないようです。われわれはNPOの本質的な価値にもっと目を向ける必要があるのではないでしょうか。

 NPO法をつくるときに原動力となったシーズ・市民活動を支える制度をつくる会の松原さんの一連のツイートが、NPOの役割や価値を考える上で参考になるので、ここでご紹介します。NPOの役割については引き続き考えていきたいと思います。(布田)

調査をしたいと思っているNPOスタッフにおすすめ②『地域の〈実践〉を変える社会福祉調査入門』

 先に紹介した『政策リサーチ入門―仮説検証による問題解決の技法』と並んでおすすめなのが、今回ご紹介する『地域の〈実践〉を変える社会福祉調査入門』です。書名に「地域の〈実践〉を変える」と入っているように、NPOなどの実務家が読むことを意識した内容で、説明も具体的な例が多く入っており理解しやすいです。

 特徴的なのは、調査の価値と倫理について1章設けられ、しっかり説明されていることです。社会福祉の分野では高齢者や障がい者、生活困窮者など社会的に弱い立場に置かされた人を調査の対象とすることも多くなります。そのような場合は特に倫理的な配慮が必要なことも出てきます。そこをいい加減にすると、意図せず調査対象者に不利益をもたらしたり、人権やプライバシーの侵害をして、あとで大きな問題になる可能性もありますから、調査倫理は実はとても重要なことです。

 もうひとつ特徴的なのは、調査事例の紹介にかなりの紙幅を使っていることです。本書全体では第1部が方法編、第2部が事例編となっていて、事例編では4つの事例が紹介されています。4つ目の事例は、コミュニティソーシャルワーカーを地域に配置する事業が予算削減により存続が危ぶまれた状況だったのを、調査により事業の意義が理解され、事業存続につながったというもので、なかなか読み応えもありました。

 社会福祉調査となっていますが、福祉以外の分野でもとても参考になるはずです。現場の問題を調査によって変えていきたいという方におすすめです。(布田)

 

地域の〈実践〉を変える社会福祉調査入門

地域の〈実践〉を変える社会福祉調査入門

  • 作者: 笠原千絵,永田祐,斉藤雅茂,室田信一,山口麻衣
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2013/10/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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調査をしたいと思っているNPOスタッフにおすすめ①『政策リサーチ入門—仮説検証による問題解決の技法』

 NPOで活動している方たちの中には、取り組んでいる社会的課題について調査をしてみたいと思っている方も少なからずいることでしょう。しかし、いざ調査の仕方を勉強しようと書籍を探しても、本屋に並んでいる社会調査の本はたいていが大学の社会調査の授業用テキストとして書かれていて、あまり実務家向きではありません。

 私も大学で社会学を学んだクチですが、もう少し実践的で使いやすい本はないだろうかといろいろ探してみて出合ったのがこの本。リサーチ・クエスチョンの立て方、仮説の立て方に重きを置き、最後の章をリサーチ結果の政策化でまとめているのが一般的な社会調査のテキストとは大きく違うところです。NPOスタッフや公務員といった実務家にとってはこちらの本の方が現場で役に立つでしょう。

 個々の調査の方法や分析の仕方については説明が薄いですが、必要に応じてあとから社会調査や統計の本を読むなどして補えばよいと思います。まずは実証的な調査についての考え方を学ぶことが大事ですし、それには本書がおすすめです。(布田)

 

政策リサーチ入門―仮説検証による問題解決の技法

政策リサーチ入門―仮説検証による問題解決の技法

 

 

(仮)NPOのための社会調査入門セミナー

※随時更新します

プロローグ 社会問題の捉え方

 NPOの役割・成果は、社会的課題の解決か?

 NPOの役割の一つは、社会問題をつくること

 それは本当に社会問題か?少年犯罪の例から

 社会問題の捉え方:不登校の例から

第1講 NPOと社会調査

 ひきこもり調査をしてみての影響

 NPOにとっての社会問題と社会調査

 NPOの社会調査の進め方

【読書案内】

 調査をしたいと思っているNPOスタッフにおすすめ①『政策リサーチ入門—仮説検証による問題解決の技法』

 調査をしたいと思っているNPOスタッフにおすすめ②『地域の〈実践〉を変える社会福祉調査入門』

 調査にだまされず、調査でだまさないために—『「社会調査」のウソ—リサーチ・リテラシーのすすめ』

 市民が行う社会調査のために①—『新版 実践はじめての社会調査』

 当事者との協働による、社会を変えるための調査—『参加型アクションリサーチ(CBPR)の理論と実践』

補講1 調査と評価

【読書案内】

 プログラム評価の基本を知る—『プログラム評価―対人・コミュニティ援助の質を高めるために』

第2講 リサーチ・クエスチョンを立てる

 リサーチ・クエスチョンを立てる①―記述の問いと説明の問い

 リサーチ・クエスチョンを立てる②—問いの立て方

 リサーチ・クエスチョンを立てる③—「どうすれば」を「なぜ」に変換する

【読書案内】

 課題の見える化のために①―『新QC七つ道具の使い方がよ〜くわかる本』

 課題の見える化のために②―『頭がよくなる「図解思考」の技術』

第3講 文献リサーチをする

 文献リサーチの方法①—論文・図書の探し方

 文献リサーチの方法②ー行政が持つ情報を入手する

【読書案内】

 情報収集に図書館を活用する—『図書館に訊け!』

第4講 仮説を立てる

 説明の問いへのアプローチ①ー因果関係を考えて仮説を立てる

第5講 社会調査の倫理と配慮

補講2 社会調査の資金調達をする

第6講 仮説を検証する

第7講 結果をまとめ、伝える

第8講 事業計画を立てる