地星社のブログ

社会をよりよくする活動を行っている人や組織を支援する宮城の非営利組織、地星社のブログです。

当事者との協働による、社会を変えるための調査—『参加型アクションリサーチ(CBPR)の理論と実践』

 NPOが活動するにあたって、調査の重要性はさまざまなところで指摘されています。その言わんとするところは、「客観的な根拠に基づいて事業をせよ」ということでしょう。というのも、想いが強いばかりに、実態の把握が疎かなまま事業を企画・実施して、結果として成果をあげられないNPOも少なからずいるからです。

 客観的な根拠(エビデンス・ベースド)の重要性は認めつつ、NPOだからこその調査のあり方があるのではないかと思っていたときに出合ったのがこの本『参加型アクションリサーチ(CBPR)の理論と実践』です。

 参加型アクションリサーチ(CBPR:Community-Based Participatory Research)をこの本では次のように定義づけています。

「コミュニティの人たちのウェルビーイングの向上や問題・状況改善を目的として、リサーチのすべてのプロセスにおけるコミュニティのメンバー(課題や音大の影響を受ける人たち)と研究者の間の対等な協働によって生み出された知識を社会変革のためのアクションや能力向上に活用していくリサーチに対するアプローチ(指向)」

 これだけだとわかりにくいかもしれません。やや乱暴ながら簡単にまとめてみると、参加型アクションリサーチは、社会的課題の解決・改善を目的とした、当事者との協働によって行うリサーチだと言えると思います。ただし、具体的なリサーチの方法論を指すのではなく、リサーチの指向性を指しています。アンケートを使った質問紙調査でも、インタビューによる面接調査でも、どういう方法を用いても、社会的課題の解決・改善を目的とし、当事者との協働によって行うという指向性があれば、それは参加型アクションリサーチと言えるでしょう。

 参加型アクションリサーチの原則は次の9つにまとめられています。

  • コミュニティとの協働
  • コミュニティ内のストレングスや資源の尊重
  • リサーチのすべての段階で平等に協働するパートナーシップ
  • すべての関係者の協働の学びと能力開発の促進
  • リサーチとアクションの統合
  • 地域密着性とエコロジカルな視点の重視
  • 循環的な反復のプロセスによる変革
  • すべての関係者との結果の共有と協働による結果の公開
  • 長期にわたるかかわりと関係の維持

 「調査」と言ったときに一般的にイメージされる「実証性」や「客観性」よりも、研究者と当事者の協働による相互作用や社会変革志向性が意識されていることが、これらの原則からもわかります。

 本書は専門的な学術書のため、NPOが調査をするときにあまり実用的に使える本ではないですが、参加型アクションリサーチについて理解する上では有用です。理論と合わせて、代表的な手法と実践事例の紹介もあります。

 地星社でも、こうした視点や方法を調査の中に取り入れていきたいと考えています。(布田)