地星社のブログ

社会をよりよくする活動を行っている人や組織を支援する宮城の非営利組織、地星社のブログです。

「心をひとつに」〜人と人のつながりを取り戻したい!

 「ふらむ名取」は、津波被災によってバラバラになってしまった名取市閖上地区の人たちの心を、再びつなぐことをめざして活動している団体です。「もう一度、心ひとつに」をスローガンに、広報誌の発行や語り部活動、復興住宅でのコミュニティ支援活動を通して「心の復興」に取り組んでいます。

■取材先:格井直光さん(ふらむ名取 代表理事)
■取材日:2020年11月21日(土)
■取材・文:中山 透
■団体概要:
 団体名 一般社団法人ふらむ名取
 所在地 名取市大手町5丁目6−1 名取市市民活動支援センター内

 あふれる閖上のつながりへの想い

 「小さい頃、閖上が嫌いでした」と語るのは、「ふらむ名取」代表理事の格井直光さん。故郷が漁業の衰退と共に活気を失っていくのを見て失望していたのです。しかし、歴史好きで地元に詳しかった格井さんは、ある時、友人に「いいところだな」と言われたことから閖上の良さに目を向けられるようになったといいます。そして、東日本大震災。格井さんの故郷は、見るも無残な姿になってしまいました。以来、格井さんは、失われた閖上の人たちのつながりを取り戻すため、走り続けています。

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最新の「閖上だより」を見せてくださる格井さん

バラバラになった閖上

 震災後の避難所で、格井さんは子どもたちが「閖上は海になった」「もう戻れない」「嫌いだ」などの言葉を口にするのを耳にしたそうです。住民たちは、現地復興か集団移転かをめぐって意見がかみあいませんでした。「なんでこんなことに」と思った格井さんは、バラバラになった閖上の住民が集まるきっかけとして芋煮会を開催します。そこで人びとの話を聞いた格井さんは、必要な情報が届いていないことが対立の一因ではないかと感じ、情報共有のため、「閖上復興だより」を発刊し始めました。

 さらに、閖上には昭和8年の三陸大津波の教訓を刻んだ石碑があったにもかかわらず、時とともに忘れ去られ、被害を拡大させてしまった事実を知ると、その轍を繰り返さないようにと、震災の教訓を伝える語り部活動も開始します。語り部活動は、津波の教訓を整理し、自分以外の体験も伝えながら、閖上の経験を他地区の防災に生かせる視点を大切にしたものでした。

 格井さんは仮設住宅でも、コミュニティ再生を目指して餅つき大会などのイベントを行ってきましたが、こだわったのは、住む場所よりも閖上の「心」でした。閖上でイベントが開催できるようになってからは閖上での開催にこだわって来ましたが、住民に呼びかけたスローガンは「閖上に行きましょう」でした。「もどろう」ではなく「行きましょう」としたのです。違いを超えて閖上への想いだけでつながろうとする「心ひとつに」の心情があらわれています。

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「震災の教訓を忘れるな」と熱く語る

 

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震災後5年後の閖上で行われた湊神社例祭、熊本地震への応援メッセージを贈る

 

好きだと言える閖上を子供たちに

 復興工事の完了が見えてきた2019年、格井さんを中心とした「閖上復興だより」と「震災を語る会」、コミュニティ再生支援をしてきた「名取交流センター」の3団体が一緒になり、新たに「ふらむ名取」が誕生しました。震災・津波とその後の復興の中で、住むところも心も離れてしまった人たちを、「閖上」を核にして、もう一度つなげることが最大のテーマです。格井さんには、避難所で見かけた子どもたちに「いい閖上を残したい」という強い想いがあるのです。

  2019年5月に「まちびらき」が行われて、再び閖上での生活が始まりました。住居という基盤はできましたが、人と人のつながりを取り戻す心の復興はまだこれからです。「閖上復興だより」は「閖上だより」として再出発し、年4回の発行で、閖上で生活する人と、震災前に閖上に住んでいた人に届けています。また、災害公営住宅では、以前の閖上の活気を写した写真を見る会を催すなど、継続的なコミュニティ支援活動をおこなっています。

 その時その時に合わせて新たな活動を展開しながら、閖上の「心がひとつ」になることを目指し、格井さんの奮闘は続きます。

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災害公営住宅のコミュニティ活動支援で住民に語りかける

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今も事務所に掲げられている「閖上復興だより」の題字

副題に「もう一度、心ひとつに」の願い