地星社のブログ

社会をよりよくする活動を行っている人や組織を支援する宮城の非営利組織、地星社のブログです。

震災を乗り越え、地域に根付くコミュニティーの場

 顔を合わせれば自然と挨拶が飛び交う、昔ながらの素朴なふれあいのある地域「玉浦地区」。その地域に根付いた、世代を超えたコミュニティの絆はとても力強い。「岩沼みんなの家」の活動をうかがい、その力強さはとても貴重で、今の時代に必要なものだと改めて気づかされました。

取材先: 谷地沼富勝さん(一般社団法人岩沼みんなのアグリツーリズム&イノベーション 代表理事)
取材日:2019年11月16日
取材・文:川波多美江

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△岩沼みんなの家

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 企業による復興支援の一貫で「岩沼みんなの家」が誕生

 2011年3月11日、東日本大震災による津波で大きな被害を受けた岩沼市玉浦地区。
「被災直後、経験のない困難の中にありながらも『こんな状況だからこそ、みんなで助け合う』それはこの地域では特別なことではなく、当たり前のことでした。」
 一般社団法人岩沼みんなのアグリツーリズム&イノベーションの谷地沼富勝さんは、当時を振り返りながらそう話してくれました。
 地域住民のほとんどが顔見知り。自然と笑顔がこぼれる。そんな強い絆を持つ地元住民と行政・民間企業支援・ボランティア団体が協力し合い、玉浦地区は復興に向け動き出します。そんな中、建築家の伊東豊雄さんらの提唱する復興拠点「みんなの家」を、東京のインフォコム株式会社のCSR(企業の社会貢献)活動として、農業復興支援先であった岩沼市に建設できることになりました。現在、「岩沼みんなの家」は地域に根付いたコミュニティづくり活動の拠点として、地域の“みんな”が集い、絆を繋ぎ、交流・コミュニケーションができるさまざまな活動を行っています。

 

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△一般社団法人岩沼みんなのアグリツーリズム&イノベーション 代表理事 谷地沼富勝さん

地域の人も、地域外の人も集まれる多彩な企画

 毎週土日には、地元農家の野菜を販売する「みんなの直売」が行われています。震災前にも“かあちゃん広場”という市場が開かれていましたが、津波の被災によって継続ができなくなってしまいました。それが2年後の2013年7月に、形を変えて復活を果たしました。新鮮な野菜やお惣菜を朝9時より販売しています。また、店内で販売している野菜を使い、月曜日は「みんなのランチ」、水曜日はカレーランチを提供。最近では評判が評判を呼び、たくさんの方が訪れているそうです。ジェラートのネット販売も行っています。
 また、岩沼みんなの家を拠点に、岩沼市の復興のシンボルでもある「千年希望の丘」での植樹・育樹活動や農業体験などを企画し、たくさんの人が参加しています。
 植樹・育樹作業は「森の防潮堤づくり」として毎年開催されています。植えられた苗木は10年もすれば立派な森となり、私たちの命を守る防潮堤となるそうです。立派な防潮堤に育つためにも定期的な草刈りが必要になるそうで、毎回参加者は汗だくになりながら、苗木を覆うぐらいはびこるマメヅルを丁寧に抜いているそうです。大変な作業ではありますが、地域の未来を守るため、多くの方が汗を流し、継続的な交流の場となっています。
 取材にうかがった2019年11月16日は「食欲の秋祭り」というイベントの開催日。マグロの解体ショーには250人ほどが駆けつけ、盛大なイベントとなっていました。こうしたイベントも、定期的に開催されています。

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△見事な包丁さばきと軽快な口上。みなさんいい笑顔だった。

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 まず自分が楽しむ。そこからアイディアが生まれる

 岩沼みんなの家は、一度だけではなく「また来たくなる」場所。「また来たよ」「ただいま」と、気軽に言えるような絆が生まれる出逢いと交流があります。同じ志をもつ仲間や地元のお母さん達が、お互いについ自然と手を差し伸べ合う。そんな温かな関係性をなぜ築けるのか。不思議に思い率直な疑問を投げかけてみました。
 谷地沼さんは躊躇なく「まず、自分たちが楽しくないと!」と満面の笑顔。「そこがスタート。企画も、きちんとかしこまった会議とかで考えるのではなく、イベントに参加してくれた人たちとの挨拶や他愛のない会話の中から生まれます。それから打ち上げ=飲みにケーション。これが実は一番大事!)
 参加者が主体的に楽しむ中で交わされる勢いのある会話。その中から新しいアイデアが生まれる。その勢いのまま、ひとりひとりが得意分野を自己申告し役割分担が決まっていく。話はどんどん膨らんでいくといいます。その場でやれる人が見つからなくても、人材が足りなくても、知り合いで協力してくれる人に声をかけるなどして、どんどん話は進んでいくそうです。
 「実現できないアイデアの方が断然多い。それでも楽しいし、失敗の中からまた新しいアイデアが生まれますから。」と語る谷地沼さんの笑顔の瞳には、目標を持って楽しみながら活動する明るい人柄がそのまま映っているようでした。