地星社のブログ

社会をよりよくする活動を行っている人や組織を支援する宮城の非営利組織、地星社のブログです。

地域の課題から始まる「つながり」の連鎖

 「名取市手をつなぐ育成会」は、昭和30年、地域で孤立しがちな知的ハンディを持った方の自立や社会参加、保護者のネットワークを実現するために始まりました。現在では名取市全域に活動を拡げ、知的ハンディを抱えるお子さんやその家族が自分らしく生活できるよう、情報発信とネットワーク作りでサポートしています。

■取材先:山川美和子さん(名取市手をつなぐ育成会 会長)
■取材日:2020年11月18日
■取材・文:今野純太郎
■団体概要:
 団体名 名取市手をつなぐ育成会
 所在地 宮城県名取市大手町5丁目6-1

地域の課題感から始まった活動

 育成会ができた昭和30年頃、閖上小学校には3名の知的障害のある子どもがいました。その子たちを親だけではなく、地域住民で支えたいと考えた有志の方々が集まりスタートしたのが育成会でした。

 当時、障害を持った方の家族は、地域で引け目を感じながら生活をしている状況でした。情報の交換の場がほとんどなく、どのような公的サービスを利用できるかもわからなかった保護者にとって、共通の悩みを持った人とお茶飲みができる場ができたことは非常に意義のあることだったことでしょう。

 2011年の東日本大震災発災時には、避難所の生活でストレスがかかり、奇声を上げたり、その場になじめなくて泣き出したり、奇異な行動をとるなどして周りに迷惑をかけてしまうのではないかと、避難所に行くことを敬遠する方が殆どでした。そのような時にも育成会の情報網により、多くの方々が地域の支援とつながることが出来ました。

みんなで楽しみながら

 現在、育成会で大切にしているものは「本人も保護者も、関係者の方も、楽しみながら友達をたくさん作れるような環境作り」とのことです。他地域の取り組みを見学に行くこともありますが、その際も視察だけでなく、食事や買い物など、息抜きを兼ねた場になるよう意識しているそうです。一方、必要な情報を必要な時に得られるよう、情報誌の発行もしています。また、学校や自治体、議員さんなど、地域の方々を巻き込みながら、困った状況があればすぐに共有できるような仕組みを作り、保護者と関係機関をつなぐハブとしての機能も担っています。

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楽しみながら友達をたくさん作れる環境作り


大きな『つながり』の連鎖

 今回、お話をお聞きした山川さんの口から何度も出て来た言葉の一つに「つながる」があります。「手をつなぐ育成会」という名前の通り、地域で課題を抱えた当事者やその家族がみんなで手をつなぐことで、情報共有や活動の範囲を拡大できる。さらに地域の方々や教育機関、自治体と手をつなぐことで、課題が個人のものではなく、社会や地域のものとなる。そんな壮大な「つながり」が育成会の活動から広がり、これからを生きる人が生きやすい社会の実現につながるイメージが浮かんできました。

 山川さんに未来に向けてのビジョンを伺うと、

「ビジョンを打ち出したりすると、みんなに重い枷になってしまいます。育成会は楽しい場所でないと意味がないんです。何かを成し遂げようとするのではなく、誰もが足を踏み入れやすい場になりたいです。」

と笑顔で答えてくださいました。

 市民活動が組織化されることも、安定した運営のためには必要な面がありますが、それによって、もともとの意義を見失ったり、敷居の高くなってしまうこともあります。仕事ではなく、より良い地域を実現するための活動だからこそ、集まる方の善意を信頼し、大切にされているように感じました。

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学びの場も大切にし、常に学び続けている。