地星社のブログ

社会をよりよくする活動を行っている人や組織を支援する宮城の非営利組織、地星社のブログです。

説明の問いへのアプローチ①ー因果関係を考えて仮説を立てる

 リサーチ・クエスチョンの種類として、記述の問いと説明の問いがあるという説明をしました。記述の問いの場合は、「〜はどうなっているか?」という現状を問うものなので、必ずしも仮説を立てることは必要ではありません。記述の問いへのアプローチの方法については、別に説明します。

 説明の問いの場合は、基本的に因果関係を明らかにしていく「仮説検証型」の調査になります。因果関係というのは、簡単に言えば、「原因があって、それが結果に影響する」というものです。

 原因→結果

 原因が結果を引き起こし、前者を変数X、後者を変数Yだと考えると、Xが独立変数、Yが従属変数にあたります。

 前回のブログ記事の子どもの貧困を例に、仮説の立て方を考えてみます。前提として、生活困窮世帯では子どもの学力が低い傾向があるという実態があったとして、リサーチ・クエスチョンは「なぜ生活困窮家庭では学力の低い子が多いか?」だとします。仮説は例えば次のように立てられます。

仮説①:学校外教育にお金をかけられず、塾に通えないから 

 貧困→塾に行けない→学力低迷

仮説②:社会的体験が少なく、自己効力感が低いため、学業に取り組む意欲が低いから

 貧困→社会的体験の少なさ→自己効力感の低さ→意欲の少なさ→学力低迷

 貧困を独立変数、学力低迷を従属変数とすると、その間にあるのは媒介変数になります。これらの変数の関係を調べることで、因果関係があるかどうか仮説を検証していきます。(布田)

当事者との協働による、社会を変えるための調査—『参加型アクションリサーチ(CBPR)の理論と実践』

 NPOが活動するにあたって、調査の重要性はさまざまなところで指摘されています。その言わんとするところは、「客観的な根拠に基づいて事業をせよ」ということでしょう。というのも、想いが強いばかりに、実態の把握が疎かなまま事業を企画・実施して、結果として成果をあげられないNPOも少なからずいるからです。

 客観的な根拠(エビデンス・ベースド)の重要性は認めつつ、NPOだからこその調査のあり方があるのではないかと思っていたときに出合ったのがこの本『参加型アクションリサーチ(CBPR)の理論と実践』です。

 参加型アクションリサーチ(CBPR:Community-Based Participatory Research)をこの本では次のように定義づけています。

「コミュニティの人たちのウェルビーイングの向上や問題・状況改善を目的として、リサーチのすべてのプロセスにおけるコミュニティのメンバー(課題や音大の影響を受ける人たち)と研究者の間の対等な協働によって生み出された知識を社会変革のためのアクションや能力向上に活用していくリサーチに対するアプローチ(指向)」

 これだけだとわかりにくいかもしれません。やや乱暴ながら簡単にまとめてみると、参加型アクションリサーチは、社会的課題の解決・改善を目的とした、当事者との協働によって行うリサーチだと言えると思います。ただし、具体的なリサーチの方法論を指すのではなく、リサーチの指向性を指しています。アンケートを使った質問紙調査でも、インタビューによる面接調査でも、どういう方法を用いても、社会的課題の解決・改善を目的とし、当事者との協働によって行うという指向性があれば、それは参加型アクションリサーチと言えるでしょう。

 参加型アクションリサーチの原則は次の9つにまとめられています。

  • コミュニティとの協働
  • コミュニティ内のストレングスや資源の尊重
  • リサーチのすべての段階で平等に協働するパートナーシップ
  • すべての関係者の協働の学びと能力開発の促進
  • リサーチとアクションの統合
  • 地域密着性とエコロジカルな視点の重視
  • 循環的な反復のプロセスによる変革
  • すべての関係者との結果の共有と協働による結果の公開
  • 長期にわたるかかわりと関係の維持

 「調査」と言ったときに一般的にイメージされる「実証性」や「客観性」よりも、研究者と当事者の協働による相互作用や社会変革志向性が意識されていることが、これらの原則からもわかります。

 本書は専門的な学術書のため、NPOが調査をするときにあまり実用的に使える本ではないですが、参加型アクションリサーチについて理解する上では有用です。理論と合わせて、代表的な手法と実践事例の紹介もあります。

 地星社でも、こうした視点や方法を調査の中に取り入れていきたいと考えています。(布田)

 

子どもの貧困から考える社会的課題の設定のしかた

 生活困窮者自立支援制度が始まったことにより、各地で生活困窮家庭の子どもを対象とした学習支援事業が増えています。これについて問題提起しているブログ記事を見つけたのでご紹介します。一部引用しますが、詳細はリンク先の記事をご覧ください。

children.publishers.fm

しかし、貧困問題の捉え方に安易なケースがよく見受けられます。

①生活困窮者はお金がないので子どもを塾に通わせられない。
②そのため学習についていけず、学力が低迷する。
③その後の進学や就職で不利となり、貧困の連鎖へとつながる。
④その対策として、お金がない家庭でも通える無料の塾を提供する。

という考え方です。そのため、「無料塾」という実施形態に止まり、この貧困問題の複雑さを甘く見ていていると言わざるを得ません。

 

ともすれば、民間の個別指導塾のように懇切丁寧に教えすぎ、「教えられること」に依存体質にしてしまう恐れもあります。そんな状況で、結果としての「学力」があがっても、高校進学後やその後にサポートがなくなったら、そこで行き詰まるだけです。経済的に厳しい状況に置かれているからこそ、自発的に行動し、自らの成長をマネジメントできる習慣づけを、早期にしていくことが、貧困の連鎖から脱出するための最大の課題です。

 

 低所得世帯では学校外教育にかける支出が少ないことも、子どもの進学率が低いことも各種の統計から明らかです。中卒や高校中退だと、生涯所得が少なかったり、就ける職業が限られてくるというのも各種データから数字で明らかになっています。そこで、そうした生活困窮世帯の子どもに学習支援を行えば、学力も進学率も向上するでしょう。だから、子どもの貧困の捉え方として、各地の無料塾のロジック自体は間違ってはいません。

 しかし、より本質的な課題は何かということです。生活困窮家庭に育ち、何かを達成した経験が少なく、自己効力感が乏しい子どもの場合、懇切丁寧な学習支援が逆に自立性を奪うことにつながる可能性もあり、学力はついたが自ら何かを成し遂げる力はつかないおそれがあることを、この記事の筆者は指摘しています。

 社会問題をどういう視点から見て、社会的課題として何を設定するかで、取り組みの方向性や内容はだいぶ変わってきます。いくら客観的データにもとづいた取り組みだとしても、根底にある価値観は問われますし、支援者は支援における行動原則や価値を常に自問する必要があります。(布田)

「何かいい助成金はありませんか?」に答える前に②―ベースの事業はできているか

 私が助成金の相談や問合せを受けたときに確認する点として、その団体のベースの事業は何かということがあります。ベースの事業も、意味合いによって2種類に分けて考えています。

①ミッション的ベースの事業…団体のミッションや存在意義に直接的にかかわる事業。
②資金的ベースの事業…団体の資金的な基盤となる事業。資金的な安定度の高い委託事業や収益事業など。(ただし、②もミッションから大きく外れるケースは少ないと思います)

 ミッション的ベースの事業が資金的にも安定性が高ければ、ミッション的ベースの事業=資金的ベースの事業になります。ミッション的ベースの事業が資金的に成り立ちにくい(対価を得にくい、行政の委託事業になりにくい、寄付だけでまわせない、etc.)場合は、資金的ベースの事業をつくることも検討しなければならないでしょう。

 後者としては、例えば、住民同士の支え合いを掲げるNPOが、ミッション的ベースの事業としてボランティアによる生活支援サービスを行う一方、資金的ベースの事業として介護保険制度による訪問介護事業を行うといったケースが考えられます。

 私は、ベースの事業がまだしっかりしていない団体が助成金に申請する場合、ベースの事業の確立につながること以外は安易に手を出すべきでないと考えています。新たな事業を始めるのは団体を疲弊させ、ベースの事業の確立を遅らせるからです。だから、こうした団体が助成金を得ようとするのであれば、資金的ベースの確立を目指して、実績づくりやノウハウの蓄積ができるような事業で申請するべきでしょう。ミッション的ベースの事業が確立されていない団体であれば、なおさらまずはそこからです。

 助成金は、新規事業や先駆的事業に出やすいという特性があるから、申請する側はどうしても新たなニーズを探しがちです。すでにベースができている団体ならいいですが、そうでない団体の場合、新しいニーズをつまみ食いして、事業終了後に団体に何も蓄積されないままになる恐れがあります。このあたりは助成機関側の問題でもあるわけで、申請団体の成長段階がどのへんなのか見極めてほしいですし、新規事業・先駆的事業だからといって安易に評価しないでほしいと思います。逆に言うと、これまでの継続事業でも、社会のニーズに応えているなら助成していただきたいし、それに対してどう資金的ベースをつくっていくかという視点で助成機関にも考えていただきたいです。

 社会のニーズに応えていて、先駆的な事業であれば、助成金申請は通りやすいです。しかし、ベースの事業ができていない団体がそこに手を出すと結局誰のためにもならない結果になる可能性があります。

 かく言う地星社も、ベースの事業づくりはまだまだ途中です。助成金を取るにしても、まずはベースの事業をしっかりさせること。そこからやっていきませんか?(布田)

市民が行う社会調査のために①—『新版 実践はじめての社会調査』

 以前も書いたように、世に出ている社会調査のテキストのほとんどは、大学の社会調査の授業で使われることを想定したものです。そのため、NPOのスタッフや公務員といった実務家が社会調査について学ぶにはやや実践的ではないということがあり、実務家向けの社会調査の本として『政策リサーチ入門―仮説検証による問題解決の技法』と『地域の〈実践〉を変える社会福祉調査入門』の2冊をご紹介しました。

 ただ、これらの本も、読者としては公務員や社会福祉機関のスタッフなどある程度専門性を持つ人が想定されており、「社会的課題に関心を持ち、自分たちで調査してみたいと思った普通の市民」にとってはややハードルが高いかもしれません。

 そこで、普通の市民向けに書かれた数少ない社会調査の本をご紹介します。1つは『新版 実践 はじめての社会調査』です。本書では、高校生の総合的な学習の時間や、大学生のレポート・論文作成、市民の自主的な調査活動などに役立つことが編集方針として掲げられ、調査の手法についてもポイントを絞った実践的な内容が紹介されています。編著者は、実際に高校の総合的な学習の時間で社会調査の授業を行っている教師や、市民による社会調査をサポートしている研究者らです。高校生や大学生、市民が実際に行った調査の例も多く挙げられているので、調査のイメージもつきやすいでしょう。

 本書で強調されているのは、高校生や大学生、市民が行う社会調査の意義についてです。社会調査を行うことによって、社会への市民参加を促進することの重要性が冒頭で述べられています。社会調査を専門家のものだけにせず、社会参加のツールとして活用していく上で、本書は役に立ちます。(布田)

 

実践はじめての社会調査―テーマ選びから報告まで

実践はじめての社会調査―テーマ選びから報告まで

 

 

NPOではない、地域の小さな団体の価値

 かつて、仙台市市民活動サポートセンターで働いていたことがあります。当時、そこは全国的に見ても先駆的な公設民営の施設だったので、行政の方の視察や来館もけっこうありました。そうして訪れる行政職員の方からは、「うちの市(町)は、NPOがあまり活発じゃなくて…」「趣味のサークルみたいな団体はあるんですけど…」というような話を聞くことも、ときとしてありました。そこには「うちの市(町)の住民の意識はまだ遅れていて…」と卑下するようなニュアンスも感じられました。

 仙台市は人口規模も大きく、市民活動団体の動きも活発で、街中に立派な支援施設があって、そんな状況を見ての率直な感想が先の発言につながっていたのでしょう。当時は私も、「その市(町)ではNPOも少なくて、自発的に社会的課題に取り組む人もあまりいないのだろうな」くらいに思っていました。

 しかし、震災後にいわゆるNPOと呼ばれるもの以外の活動を見聞きするうちに、地域に対する見方が変わってきました。例えば、地星社が事務所を置く岩沼市もNPO法人の数はそう多くありません。しかし、高齢者の介護予防や生きがいづくりなどを目的とした「サロン活動」をしている方たちが地域の中にけっこういらっしゃるということを知りました。

 また、別の町の例ですが、シニア世代の方たちのダンベル体操のサークル活動が盛んだそうで、町内にそうしたサークルがたくさんあるという話を伺いました。その町の社協が地域住民によるダンベル体操のサークル活動を後押しし、それで広まったとのことでした。この町は岩沼よりもさらにNPO法人の数が少ないです。

 サロン活動もダンベル体操のサークルも、NPOというよりは共益的要素、サークル的要素が強い活動でしょう。かといって、NPOより価値が劣るかというと、そんなことはまったくないと思います。立派なミッション・ビジョンをかかげ、質の高いサービスを提供するNPOがあるのもいいですが、市民の自発性に基づく小さな活動が無数にあることの方が、市民参加やコミュニティのエンパワーメントという観点からはむしろ大事なのではないでしょうか。

 こうした地域活動団体にも、地域のリソースとしてもっと目を向けていく必要があると考えています。(布田)

「何かいい助成金はありませんか?」に答える前に①—その社会的課題にその事業で効果はあるか

 地星社では、助成金情報を一覧にまとめて提供していたこともあって、助成金に対する相談や問合せを受けることもしばしばあります。よく訊かれるのは、「何かいい助成金はありませんか?」という質問です。その団体が実施しようとしている事業にマッチする助成金という意味での「いい助成金」であれば、探すお手伝いをすることはやぶさかではありませんが、「楽して獲得できる助成金」(要件が厳しくない、申請書をつくるのが難しくない、倍率がそれほど高くない、etc.)という意味合いで訊ねられることも少なからずあります。

 助成金に関する問合せを受けた場合は、どのような事業で申請しようとしているのか、事業の内容や助成金で賄いたい費用についてお伺いします。そうすると、取り組もうとしている社会的課題に対して、その事業で本当に効果があるのか、第三者の視点で見ると疑問のあるケースも出てきます。さらに、そもそもの社会的課題の捉え方に問題があることもあります。

 そうならないためには、助成金の申請書を書く以前に、団体の事業計画をきちんとつくって、成果目標とそこに至るロジックを明確にしておかなければなりません。また、そうした事業計画をつくるには、取り組む課題に対してしっかりリサーチを行い、課題の状況を客観的に把握しておく必要があるでしょう。

 だから、「何かいい助成金はありませんか?」の答えは、「課題についてしっかりリサーチして、それを元に事業計画を立てましょう」となることもあります。そういう意味では、NPOが社会調査をするのもファンドレイズの一手段と言えるかもしれません。(布田)