地星社のブログ

社会をよりよくする活動を行っている人や組織を支援する宮城の非営利組織、地星社のブログです。

NPOの社会調査の進め方

 NPOが社会調査を行う場合、どのように進めていけばよいでしょうか。これまで紹介した2冊の本では、調査の進め方を以下のように示しています。まずは『社会福祉調査入門』から。

実践から浮かび上がって来た疑問
  ↓
①研究や調査の目的を定める「現場の問題から「問い」を育てる」
  ↓
②調査を企画する「〈問い〉にどうアプローチするか」
  ↓「データを集めるまえに」(調査の倫理)
③データの収集「データを集める、読みとく」(⑤まで)
  ↓
④データの分析
  ↓
⑤結果をまとめる
  ↓
⑥知見を共有する「実践にフィードバックする」

 次は『政策リサーチ入門』です。

①リサーチ・クエスチョンを立てる(テーマ選定・研究計画策定)
  ↓(①〜③まで文献リサーチを並行して行う)
②仮説を立てる(因果関係の想定・概念の明確化)
  ↓
③データを収集する(観察・聞き取り・調査)
  ↓
④仮説を検証する(分析・推論)
  ↓
⑤結果をまとめ、発表する(プレゼン・論文執筆)
  ↓
⑥リサーチ結果を政策化する(政策手段の選択・政策評価)

 『政策リサーチ入門』では、「仮説を立てる」「仮説を検証する」という項目が入っていますが、同書では仮説検証型のアプローチを重視しているためです。このように多少の違いはありますが、大まかな進め方は同じです。これらの本も参考にしながら、NPOが行う社会調査について、順番に説明していきたいと思います。(布田)

調査にだまされず、調査でだまさないために—『「社会調査」のウソ—リサーチ・リテラシーのすすめ』

【ロサンゼルス4日=共同】(略)米紙ロサンゼルス・タイムズが4日発表した世論調査でこんな結果が出た。9月下旬、全米で1600人を対象に行ったこの調査では、健在の4人の前、元大統領のうちだれを支持するか、という質問に対し、35%がカーター氏、22%がレーガン氏、20%がニクソン氏、10%がフォード氏と答えた。(略)(朝日新聞 1991.11.16)

 この世論調査の問題点は何か、ということが本書の冒頭で出題されます。25年前の新聞記事なので、出てくる大統領の名前にあまりピンと来ない方もいることでしょう。今のオバマ大統領の前の4人だと、レーガン、ブッシュ(父)、クリントン、ブッシュ(子)となりますが、これだともう少しわかりやすいでしょうか。

 引用されている記事でいうと、4人のうちカーターだけが民主党で、残りは共和党です。ですから、この4人のうち1人を選ぶとすれば、共和党支持者の回答は分散し、民主党支持者の選択肢はカーターしかないので、もともとカーターが支持を集めやすい選択肢になっています。だから、もしオバマ大統領の前の4人を選択肢とすれば、クリントン氏が一番支持を集める可能性が高いでしょう。このように、特定の選択肢が上位に来るような選択肢の作り方を、「forced choice(強制的選択)」というそうです。

 本書では、上述の記事のような具体例を示しながら、社会の現実と調査結果のズレを生むバイアス(偏向)が20種類以上解説されます。気づかずバイアスの入った調査をしてしまうこともあるでしょうし、意図的にバイアスを利用しようとするケースもあるでしょう。槍玉に挙げられるのは、学者、政府・官公庁、社会運動グループ、マスコミなど。この分類で言えば、NPOは社会運動グループに入ると思います。

 問題の存在を多くの人に知ってほしいという意図は正しくても、バイアスの入った調査は、最終的には調査の信憑性を損ねるものです。(意図せず)だましたり、だまされないためにも、社会調査をする上でどのようなバイアスがあるのかを知るには必読の本です。(布田)

 

「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ (文春新書)

「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ (文春新書)

 

 

NPOにとっての社会問題と社会調査

 NPOの役割のひとつとして、社会の中で見過ごされている問題を見出し、解決すべき問題として世の中に訴えかけていくことが重要であるということを以前書きました。こうした、社会の中であまり見えてない問題を可視化していくには、社会調査は有効な方法です。しかし、ここで矛盾が生じやすくなります。NPOがその問題を社会に訴えていく一方で、社会調査の結果には客観性が求められているからです。

 これも前に書いたことですが、人間は自分の意見・考えを支持する情報は積極的に取り入れますが、それ以外の情報はあまり積極的には集めようとはしません。ですから、NPOのような社会運動体が社会問題に取り組み、それを社会に対して訴えていく上では、社会調査をやっても、自らの主張に沿うような結果だけ都合よく取り出してしまう危険性があります。しかも、こうしたことは意図せずに起きてしまいがちです。

 これを避けるためには、NPOと言えども正しい方法論に基づいて社会調査をする必要があります。また、それと合わせてリサーチ・リテラシーを高めることが求められるでしょう。

 社会運動体でありながら、調査結果には客観性が求められるというのはなかなか大変なことです。しっかりした調査をしてその結果を発表したとしても、そもそものところで色眼鏡で見られがちで、調査結果について信頼してもらいにくいということもあります。

 このブログでは、NPOが社会運動体であることと、客観的な調査をすることの両立を果たしていく上で大事なことをこれから少し考えていきたいと思います。それ以外のテーマについてちょくちょく書いていきますので、どうぞよろしくお願いします。(布田)

ひきこもり調査をしてみての影響

 地星社が実施したひきこもり調査の結果が、ダイヤモンドオンラインの記事で取り上げられました。私のコメントも出ています。

diamond.jp

 この調査は、NPO法人Switch(仙台市)が事業主体として行った岩沼市の若者の就労支援プログラムの一環として行われたものです。岩沼市の民生委員を対象にアンケート調査を実施し、担当地区にひきこもり者の存在を把握しているかどうかを訊ねました。回答したのは73名中30名で回答率は約4割、ひきこもり者の存在を把握していたのは11名。1人で複数のひきこもり者を把握していた方もいたので、今回の調査で把握できたひきこもり者は16名でした。

 このように限られたデータでしたので、さまざまなことが明るみに出たり、いろいろわかったわけではありません。それでも、調査結果を民生委員の定例会や市の生活困窮者自立支援事業の会議で報告させていただたり、こうしてメディアに取り上げられたりすることによって、関係機関の方々にこの問題について関心を持ってもらうことができました。

 社会調査は、結果によって何かが明らかになることが大事ですが、調査のプロセスや調査をしたこと自体が持つ周囲や社会への影響も無視できません。NPOとしては、調査を行うこと自体が生む価値や影響力も、上手にデザインしていきたいところです。(布田)

社会問題の捉え方:不登校の例から

 以前に、社会問題は人々の認識によってつくられるということを書きました。認識によってできるということは、その問題がどう認識されるかによってその捉えられ方も変わってくるということです。一つ、例として不登校の問題を挙げましょう。

 私は教育学専攻だったこともあり、その昔、大学の卒業論文では不登校をテーマに選びました。当時の大きな教育問題のひとつだったことが、不登校を卒論のテーマに選んだ理由でした。不登校の子を持つ親、小中学校の教師、そして一般の大学生を対象にアンケート調査を行い、不登校についてどのように認識しているかを比較しました。

 調査においてさまざまな質問をしましたが、いくつかの質問ではっきりとした違いが出ました。不登校の原因として、不登校児の親は「学校に問題があるため」との回答が多く、一方、教師では「家庭に問題があるため」との回答が多くありました。大学生はその中間でした。こうした傾向が出ることはある程度予測はしていましたが、実際に数字で違いが出るとこれほど違うのかという印象を受けました。このように、同じ社会問題でも違う捉え方がされることがあります。

 また、不登校は増えていると思うかという質問に対し、不登校児の親では「とても増えている」と答える傾向が強く出ました。その当時は、不登校の出現率はやや横ばい傾向で、全体で見ればとても増えているというほどではなかったのですが、不登校児の親の会に参加しているような保護者の方だと、不登校がすごく増えているように感じられたのでしょう。

 不登校になる原因はケースによってさまざまで、また複合的な要因であることも多く、一般的に何が原因とは言いにくいというのが今のところの私の意見です。それでも、当事者である親の側からすれば、「子どもには問題がないのに学校に行けないというのは学校に問題があるからだ」と考えがちでしょうし、教師の側からすれば、「他の子どもはちゃんと登校しているのに学校に来れないというのはその子自身や家庭に問題があるからだ」と考えがちです。

 当事者の立場になると、どうしてもその問題をその立場から捉えがちになります。NPOも当事者を代理する立場だと、やはりそうした傾向が出てきます。当事者は、社会的に弱い立場だったり、社会的に何らかの不利益を被っていたりするので、自分の立場から社会問題を捉えるのは必ずしも悪いことではありません。

 しかし、人間の特性として、自分の意見・考えを支持する情報は積極的に取り入れるものの、そうではない情報はなかなか視界に入らないという傾向があります。心理学の用語では確証バイアスと言いますが、そうした傾向があることを踏まえて、客観的な情報を集めるよう心がけるべきでしょう。(布田)

プログラム評価の基本を知る—『プログラム評価―対人・コミュニティ援助の質を高めるために』

 最近、非営利セクターの界隈でも評価が重要であるということが盛んに言われるようになってきました。評価というものは基本的に、事業を実施した後(あるいはしている途中)でなされるものです。そのため、私も評価について考えるのは事業を実施した後になりがちでしたし、評価について学ぶのも後回しになっていました。しかし、この本を読んで考え方を改めました。評価のことは最初に考えておくべきで、事業計画を立てるときに評価のしくみも入れておいてこそ質の高い事業につながるのです。

 「プログラム」とは何かということもちょっと説明しておきます。本書ではプログラムを「何らかの問題解決や目標達成を目的に人が中心となって行う実践的介入」としています。これには、政策、施策、事業、プロジェクトと、大きなレベルのものから現場の実践に近いものまで含まれます。

 本書の第2部がプログラムのプランニングとマネジメントについての説明で、ここに多くの紙幅が割かれています。ニーズアセスメントやリソースアセスメントの方法などの他、今話題のインパクト理論(インパクト評価)についても書かれています。キーワードごとに端的に解説されているので、ここを読むだけでも事業計画を立てたり、助成金の申請書をつくるのにだいぶ役に立つでしょう。

 評価というと、最近の風潮では社会的価値を測るため、アカウンタビリティのためというイメージがあるかもしれませんが、プログラムを改善し、支援の質を高めるためにも必要なものです。

 評価に関する基本的な事項がまとまっているので、評価について一通り学びたい方におすすめの一冊です。(布田)

プログラム評価―対人・コミュニティ援助の質を高めるために (ワードマップ)

プログラム評価―対人・コミュニティ援助の質を高めるために (ワードマップ)

 

 

それは本当に社会問題か?少年犯罪の例から

 前回は、問題となる客観的事実があるから社会問題となるのではなく、「それは問題だ」と社会的に認識されることで社会問題となるということについて書きました。つまり、客観的な事実があることと、それが社会問題となることは必ずしもイコールではないということです。だからこそ、見過ごされている問題に気づき、それを社会問題としていくことは重要なのですが、その逆のことも起こりえます。すなわち、問題とされる客観的事実はないのに、社会問題化しているという状態です。

 少年犯罪の増加、凶悪化という問題を例に挙げましょう。世の中では少年犯罪が増加・凶悪化していると感じている人が多い一方で、少年犯罪の統計を見ると、少年犯罪は増加も凶悪化もしていないという結果が出ています。このようなギャップがあることについては、すでに多くの識者が本や新聞・雑誌等で指摘しているところです。ネットで検索するだけでもたくさんの記事がヒットしますが、参考までに一つだけ記事を紹介しておきましょう。

gendai.ismedia.jp

 少年犯罪が減少しているにもかかわらず、増加しているように感じられるのは、少年犯罪が起きるとマスコミで大きく取り上げているせいかもしれませんし、報道のされ方がセンセーショナルだからかもしれません。いずれにせよ、感覚と現実の間にはギャップが生じることもあるわけで、私たちが社会問題だとして捉えていることが、本当にそのとおりに問題なのかはしっかり検証する必要があります。

 例えば、「少年犯罪が近年増加、凶悪化している、これは家庭や学校において道徳教育が疎かにされているからだ、だからNPOをつくって青少年に対する道徳教育を推進しよう」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その前提は正しいでしょうか。ここではひとつの例として少年犯罪を取り上げましたが、こうしたことは社会の問題に取り組む以上、NPOの活動では常につきまとうことです。もしかしたら私たちが社会問題として取り組んでいることも、現実と大きなギャップがあるかもしれません。社会問題は人々の認識によってつくられるという性質を理解し、それがどのように問題化されているのか分析する視点が大事ですし、実際はどうなのだろうと調べてみることも重要です。(布田)