地星社のブログ

社会をよりよくする活動を行っている人や組織を支援する宮城の非営利組織、地星社のブログです。

2019年度 ソーシャルライター入門講座 in 岩沼 受講生の取材記事

 2019年度、地星社ではソーシャルライター入門講座 in 岩沼を開催しました。3回の講座+取材体験を経て、受講者が作成した取材記事を掲載します。どの記事も力作ぞろいです。ぜひご覧ください。

 

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羊がつなぐ被災地の新しい交流

 いわぬまひつじ村は、東日本大震災による津波被災後、草が生い茂り、石だらけだった手つかずの土地に作られたふれあい牧場です。行政や運営団体、地域住民が力を合わせて被災地の再生と活性化を実現しています。震災後の新しい交流や学びの場のかたちを取材しました。


取材先:松尾洋子さん(いわぬまひつじ村 スタッフ)
取材日:2019年11月2日
取材・文:條 沙織

対話から生まれるアイディアを大切に

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△お話をうかがったスタッフの松尾洋子さん。松尾さんの姿を見つけるとすぐに羊が駆け寄ってきた

 いわぬまひつじ村(以下、ひつじ村)は、東日本大震災後、岩沼市の玉浦地区二ノ倉に作られた羊の牧場です。広い場内には手作りの牧柵が7ヶ所あり、その中でたくさんの羊たちが自由に過ごしています。取材当日は土曜日でイベントが開かれていたこともあり、子ども連れの姿が多く見られました。羊たちは人懐っこい性格でとても可愛らしく、すぐにトコトコと近寄ってきてくれます。
 「ひつじ村」がスタートしたのは、震災後、災害危険区域となり草が生い茂っていたこの場所に、2頭の羊が放牧されたことがきっかけでした。2015年11月、岩沼市と東北大学の協力のもと、被災者の心のケア(アニマルセラピー)と除草実験の目的で牧羊が始まり、その姿を見に近所の親子連れなどが訪れるようになると、次第に口コミが広まり、たくさんの人が羊を見に来るようになりました。その後2017年12月、「いわぬまひつじ村」として運営が始まりました。

 お話をうかがったスタッフの松尾洋子さんは、「本当にたくさんの人の協力をいただいてここまで来れました。だから、ひつじ村はみんなの場所であってほしいです。」と、笑顔で話してくれました。松尾さんは日頃から人との対話を大切にしているそうで、イベントの企画を考える際も、スタッフや訪れた人との会話をヒントにするといいます。そうすることで、より多くの人に喜んでもらえる場所になると考えているからです。ひつじ村には、そうして生まれた手作り感のあるオブジェや貼り紙をいたる所に見つけることができます。

 

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△瓦礫で作成した羊のオブジェ

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△楽しんで学んでもらえるように羊の豆知識が貼られている

地域住民とともに歩む 

 ひつじ村にあるほとんどのものは手作りです。そしてそのひとつひとつには、地域からの協力が詰まっています。スタートする時には「牧場づくりイベント」を立ち上げ、住民も一緒に参加し、石を取り除いて土を作ることから始め、牧草の種まきもしました。作業を進めるうちに住民と羊とのふれあいが自然と生まれ、地域の人が羊を気づかい野菜を提供してくれるなど、様々な交流が生まれました。現在、「ゲル」といわれるモンゴルの遊牧民の伝統的な住居が牧場内にあるのですが、この中で使用する椅子やテーブルを作成するため「ゲル委員会」を立ち上げ、その活動にも地域住民が加わっています。

 松尾さんは当初、震災前の二ノ倉地区の姿を知る人たちの目にひつじ村がどのように映っているのか、不安な思いもあったといいます。しかし、羊の様子を気にかけて来てくれる地域の人々の優しさに触れ、その度に前へ進む力となりました。「今後は、子どもたちを対象とした防災や食育に関わる学びの場を作っていくなど、さらなる活発な活動を通して地域とのつながりを強めていきたい」と松尾さんは話してくれました。行政の手を離れ独立して運営できるようにするという大きな目標もあります。住民のみなさんと一緒にひとつひとつ課題を解決しながら、ひつじ村は、モコモコと日々大きく成長しています。

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△元気いっぱいの可愛らしい羊に会えるいわぬまひつじ村。 のんびり眺めたいときは平日がおすすめだ



 

母と幼子の孤立を防げ ~豊かなつながりと体験が生む「共育ち・共育て」~

 「ちびぞうくらぶ」は、地域の乳幼児を持つお母さんの孤立を防ぎ、子育て仲間が集うための場です。口コミで参加者が増え、さらに大学生、中高年者、障害者など、多様な人々との交流も生まれています。誰もがのびのびとして育て合い、成長する「共育ち・共育て」の場の今を紹介します。

取材先:三浦未穂さん(ちびぞうくらぶ 代表)
取材日 2019年11月7日
取材・文 石川湧香

子育てが「孤」育てにならないように

 取材にお邪魔すると、陽のさす会場に、たくさんの親子が集まっていました。スタッフと今日の企画を楽しむもよし、大学生のボランティアとおもちゃで遊ぶもよし。それぞれの親子が思い思いに過ごしています。奥では地域の中高年の方々がご飯を作り、お昼ごろになると障害者の方々が野菜販売に訪れ、にぎやかさがピークを迎えます。
 私たちを笑顔で出迎えてくれたのは,代表の三浦未穂さんです。持ち前の明るさとざっくばらんな話しぶりで、この場の中心になっています。三浦さんは現役の保育士で、8人のスタッフも皆、仕事の合間を縫って活動しています。
 三浦さんは、現在は子育てが「孤」育てに近くなっていることを心配し、「お母さんが玄関から出るきっかけを作りたい」と言います。そこで「ちびぞうくらぶ」は、乳幼児の母親が子育てについて語らい、ストレスを軽くし、情報の共有や相談ができる場づくりを活動の目的にしています。月2回の活動日には毎回20~30組の親子が参加し、2時間ほど一緒に過ごします。毎回の企画には、芋煮会など季節を感じるものや、子育てコーチングなど家庭では難しい活動を工夫して取り入れるなどしています。

 

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△「おひるねアート」で写真撮影。お母さんが楽しめるよう、毎回企画が練られている

多彩な人たちが「育ちあう・認め合う・支え合う」

 ちびぞうくらぶは、地域の高齢者や障害者の方々とも積極的に交流しています。「若いお母さんだけで集まって、お年寄りの知恵袋を知らないでいるのはもったいないよね」と三浦さん。「子どもに障害があって、不安になるお母さんもいる。近くの障害者施設の人たちに野菜販売に来てもらってるのは、障害者が自立している姿をお母さんに見てもらいたいから。障害は個性だと思ってほしい」。
 いろんな人が交わるからこその発見や感動。子どもを持つお母さんだけでなく、誰もが与え合い、一緒に育っていく。ちびそうくらぶはそれを大切にし、実現しています。「僕たちの方が遊んでもらってます」と言って子どもとたわむれる、大学生ボランティアの笑顔が印象的でした。

 

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△地域の中高年の方々が昼食を手作り。今日は芋煮だ!

 形にこだわらず、子育てに今必要なものを問い続ける

 ちびぞうくらぶには「~せねばならぬ」はなく、柔軟な体制になっています。途中参加・退出自由、急に行けなくなっても連絡は不要、企画などのスケジュールも強制しません。お母さんが気軽に来やすいようにするためです。
 また三浦さんは、この場はあくまで親子のための1つの機会でしかないのだからと、「(いろんなサークルを)ハシゴしろ、いろんな人とつながれ」とお母さんたちに伝えているそうです。今後についても、「これだけ大勢の人に広がっているから、しばらくは続けるけど。立ち上げた頃と違って、これからは子育て支援センターが市内に増えるから、そっちに活動を移してもらって、私たちは退いてもいいかなって。私個人としては、何らかの形で子育て支援にかかわっていこうとは思ってるけどね。」と、さらりと次を見据えていました。三浦さん自身のそんな柔軟な態度があるからこそ、ちびぞうくらぶはさまざまな人にとって居心地のいい場となっているのかもしれません。

 

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△子どもはみんな、小さな巨人。その思いが「ちびぞうくらぶ」という名前に込められている

 活動は、第1・第3木曜日の午前中、10:00~11:30(~12:30まで開場)まで。乳幼児の親子のほか、誰でも参加できます。入会費500円、参加費1回100円~です。気になったら、ちょっと足を運んでみませんか。

つながりを取り戻す  ~世代をつなぎ、「住みたい」「帰ってきたい」地域へ~

 岩沼市社会福祉協議会では、高齢者の方や障害を持つ方や子どもたちが、スポーツや介護体験を通じて交流するイベントなどを企画しています。今回は、地域福祉課にお勤めの小菅寿美(こすがとしよし)さんに熱い思いを伺いました。

取材先:小菅寿美さん(社会福祉法人岩沼市社会福祉協議会 職員)
取材日:2019年11月13日
取材・文:渡辺 格

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△お話を伺った小菅さん。お子さんが成長してきて、岩沼への愛着が一層深まったとのこと

失われた地域のつながりを取り戻す

 小菅さんは、岩沼市社協で23年のキャリアを持つベテラン職員です。そんな小菅さんに岩沼市がどのように変化してきたかをうかがうと「新興住宅地が増え、ご近所同士で顔を合わせる機会が減ってきたほか、介護サービスをそれぞれの家庭で選択できるようになったことで、互いに介入しない空気ができてしまい、つながりが希薄になったように感じますね」とのこと。
 このような状況を踏まえて、小菅さんが所属する地域福祉課では、失われつつある地域のつながりを取り戻すための事業を行っています。具体的には、スポーツなどを通じて高齢者の方同士が交流する場を作ったり、介護をしている人が集まってのんびり話ができるサロンを設けたり、お子さんが高齢者の方や障害を持つ方と交流する季節行事などを行っています。
 参加者のみなさんからは、「今まで顔を合わせたことのなかった人と話せた」、「町内会の総会の参加者が大幅に増加した」という声が聞こえており、こうした事業によって地域のつながりは着実に強まっているそうです。

小さな声を拾って、周囲を巻き込む

 先に紹介した高齢者の交流事業は、民生委員の方の「地域に高齢者が増えてきているので、何か交流事業を始められないかな…」という声を小菅さんが聞きつけたことがきっかけで始まりました。小菅さんはその民生委員さんに声をかけ、アイデアをまとめた上で一緒に町内会長のところに説明に行き、事業が始まったのです。これ以外にも、お母さん方の「何か子どもたちができる交流体験ってないのかな」という声を聞きつけ、小学生のボランティア事業を立ち上げたりしました。
 こうした、ふとした際に聞こえてくる小さな声を拾えるように、小菅さんは常にアンテナを張っているといいます。そして、せっかくの声を拾っただけで終わらせてしまわないように、熱意を持って周囲の人々を巻き込みます。人の巻き込み方についてお聞きすると、「結局、一つずつ丁寧に話して分かってもらうしかないんだと思います。理解してもらってなんぼの世界ですから」と、地道な苦労を感じさせない、にこやかな笑顔で話してくれました。

 

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△震災で若い人の力を感じたことも、今の姿勢に大きな影響を与えたとのこと  

「住みたい」「帰ってきたい」地域を目指して


 今後の展望についてうかがうと「若い世代も含めて、みんなが『住んでいたいな』と思える地域にしたいですね。もちろん東京に出て何かしたいって夢があってもいいんだけど、そういう人にも『また帰ってきたいな』と思ってもらえる岩沼になればいいですよね。」という答えが帰って来ました。小菅さんの思い描く「住みたい」「帰ってきたい」地域とは、自分たちで地域の問題点を発見・解決していける、自立した地域だそうです。それを実現するためには、地域の人同士で何でも気兼ねなく言い合えるような、つながりの強さが必要なんです。」とのこと。
 取材時、岩沼市社協では、ちょうど令和2年度からの事業計画を立てているところでした。そこで考えられていたのは、社協が開催するイベントにただ参加してもらえればいいということではなく、地域の人同士が今まで以上に顔を合わせたり、普段言いにくい悩みや本音を言い合えたりするような、つながりを強めるための計画です。小菅さんは、どうすればつながりを今より強められるか、地域の方々の声を聞きながら、今日も考え続けています。

「住みたいまち・帰って来たいまち岩沼」をつくるために

 生粋の岩沼っ子・小菅寿美さんは、生まれも育ちも岩沼市。就職先も「岩沼市社会福祉協議会」を選び、今は岩沼市で子育て中でもあります。小菅さんが仕事をする上で心がけていること、またその心がけにつながったきっかけについてお聞きしました。

取材先:小菅寿美さん(社会福祉法人岩沼市社会福祉協議会 職員)
取材日:2019年11月13日
取材・文:阿部夕紀

住民との協働で成り立つ仕事

 岩沼市社会福祉協議会の事務所は、太陽の光が入り込み、明るく開放的な空間です。ロビーでは、職員も来客者も、元気に挨拶を交わしています。
 「おはようございます!」と言いながらロビーに颯爽と現れたのは、岩沼社協の係長、小菅寿美さん。岩沼市出身で、社協職員としては23年目。人生の半分近くを岩沼市

の福祉の向上に捧げてきました。

 

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△気さくで笑顔が素敵な小菅さん

  みなさんは「社協」と聞くと、どのようなイメージをお持ちでしょうか?
社協の仕事は、人々が地域で安心して暮らせるようにすることです。高齢者や障害者の支援、ボランティアセンターの運営等、活動内容はかなり多岐に渡ります。
 社協の業務について、小菅さんは「職員だけで担っているつもりはなく、地域の方やボランティアさんの協力があって成り立っています。いろんな方の力を借りながら一歩一歩進めています。」と真っすぐな眼差しで語ります。

 小菅さんが、地域住民やボランティア希望の方と接する上で大切にしていることは、「隠さないこと、本音で話すこと」だそう。
 同じ岩沼社協のスタッフも、「住民の方との集まりで小菅さんは進行役をやっていますが、素のままなんです!住民の方も身内と話すように小菅さんと会話してますよ。」と教えてくれました。

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△「岩沼市総合福祉センター iあいプラザ」の中に岩沼社協がある

「本音のコミュニケーション」の原点

 人とコニュミケーションを取る上でのこうした心がけについて、「3.11。これがきっかけで大きく変わりました」と言う小管さん。東日本大震災のときは、ボランティアセンターの立ち上げ・運営を行っていました。当時のことを「行政やNPO、ボランティアさんだったり、いろんな人が入り乱れる場で、何かを隠したり遠慮している場合ではなかった」と振り返ります。

 人との関係性を「徐々に築く」のではなく「すぐに築く」、さらに「築いた関係性を継続させる」ことが必要だった当時。小菅さんは、「本質を伝えてすぐに仲良くならないと協力を仰げない。良いことも悪いことも全てさらけ出していた。これが3.11で自然と身についたのかもしれません。」と話します。
 相手の要望をしっかり聴き寄り添うこと、自分の要望も遠慮せずに伝えることを徹底し、お互いにとって良いやり方・関係性を築いてきた小菅さん。
 この経験が、現在の小管さんの「本音で話すコミュニケーション」の原点なのです。

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△施設内の掲示板で、岩沼市内のボランティア・イベントなどの情報を知ることができる

 「自分の仕事がなくなること」が理想かもしれない

 現在、小菅さんが目指しているのは、「自分を含めた若い世代が住んでいたい、帰って来たい地域をつくる」こと。小管さんの2人の子どもも岩沼市で生まれ、ご自身が通ったのと同じ学校に通っています。子どもが生まれたことで、小菅さん自身も岩沼への愛着が一層増し、子どもにも将来は岩沼市で家庭を築いて欲しいという希望を持っているそうです。
 住民どうしが顔を合わせる機会が多く、お互いが話しやすい地域にすること。そして、社協や行政が関わらなくても、話し合い、助け合うことで課題を解決し、完結できる「地域力」を持つことが、若い世代にとっての「住みやすい地域」を実現するのでは?と小菅さんは考えています。
 「究極、社協がない世界がいいのかな?俺の仕事なくなっちゃうけど!」と笑いながら話す小菅さん。笑顔を絶やさず、ときには真剣に、ときにはユーモアを交えて語る様子が、彼の人柄や、住民との関わり方をそのまま表しているようでした。
 小菅さんは今日も、住民と共に笑顔で奔走します!

 

震災を乗り越え、地域に根付くコミュニティーの場

 顔を合わせれば自然と挨拶が飛び交う、昔ながらの素朴なふれあいのある地域「玉浦地区」。その地域に根付いた、世代を超えたコミュニティの絆はとても力強い。「岩沼みんなの家」の活動をうかがい、その力強さはとても貴重で、今の時代に必要なものだと改めて気づかされました。

取材先: 谷地沼富勝さん(一般社団法人岩沼みんなのアグリツーリズム&イノベーション 代表理事)
取材日:2019年11月16日
取材・文:川波多美江

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△岩沼みんなの家

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 企業による復興支援の一貫で「岩沼みんなの家」が誕生

 2011年3月11日、東日本大震災による津波で大きな被害を受けた岩沼市玉浦地区。
「被災直後、経験のない困難の中にありながらも『こんな状況だからこそ、みんなで助け合う』それはこの地域では特別なことではなく、当たり前のことでした。」
 一般社団法人岩沼みんなのアグリツーリズム&イノベーションの谷地沼富勝さんは、当時を振り返りながらそう話してくれました。
 地域住民のほとんどが顔見知り。自然と笑顔がこぼれる。そんな強い絆を持つ地元住民と行政・民間企業支援・ボランティア団体が協力し合い、玉浦地区は復興に向け動き出します。そんな中、建築家の伊東豊雄さんらの提唱する復興拠点「みんなの家」を、東京のインフォコム株式会社のCSR(企業の社会貢献)活動として、農業復興支援先であった岩沼市に建設できることになりました。現在、「岩沼みんなの家」は地域に根付いたコミュニティづくり活動の拠点として、地域の“みんな”が集い、絆を繋ぎ、交流・コミュニケーションができるさまざまな活動を行っています。

 

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△一般社団法人岩沼みんなのアグリツーリズム&イノベーション 代表理事 谷地沼富勝さん

地域の人も、地域外の人も集まれる多彩な企画

 毎週土日には、地元農家の野菜を販売する「みんなの直売」が行われています。震災前にも“かあちゃん広場”という市場が開かれていましたが、津波の被災によって継続ができなくなってしまいました。それが2年後の2013年7月に、形を変えて復活を果たしました。新鮮な野菜やお惣菜を朝9時より販売しています。また、店内で販売している野菜を使い、月曜日は「みんなのランチ」、水曜日はカレーランチを提供。最近では評判が評判を呼び、たくさんの方が訪れているそうです。ジェラートのネット販売も行っています。
 また、岩沼みんなの家を拠点に、岩沼市の復興のシンボルでもある「千年希望の丘」での植樹・育樹活動や農業体験などを企画し、たくさんの人が参加しています。
 植樹・育樹作業は「森の防潮堤づくり」として毎年開催されています。植えられた苗木は10年もすれば立派な森となり、私たちの命を守る防潮堤となるそうです。立派な防潮堤に育つためにも定期的な草刈りが必要になるそうで、毎回参加者は汗だくになりながら、苗木を覆うぐらいはびこるマメヅルを丁寧に抜いているそうです。大変な作業ではありますが、地域の未来を守るため、多くの方が汗を流し、継続的な交流の場となっています。
 取材にうかがった2019年11月16日は「食欲の秋祭り」というイベントの開催日。マグロの解体ショーには250人ほどが駆けつけ、盛大なイベントとなっていました。こうしたイベントも、定期的に開催されています。

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△見事な包丁さばきと軽快な口上。みなさんいい笑顔だった。

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 まず自分が楽しむ。そこからアイディアが生まれる

 岩沼みんなの家は、一度だけではなく「また来たくなる」場所。「また来たよ」「ただいま」と、気軽に言えるような絆が生まれる出逢いと交流があります。同じ志をもつ仲間や地元のお母さん達が、お互いについ自然と手を差し伸べ合う。そんな温かな関係性をなぜ築けるのか。不思議に思い率直な疑問を投げかけてみました。
 谷地沼さんは躊躇なく「まず、自分たちが楽しくないと!」と満面の笑顔。「そこがスタート。企画も、きちんとかしこまった会議とかで考えるのではなく、イベントに参加してくれた人たちとの挨拶や他愛のない会話の中から生まれます。それから打ち上げ=飲みにケーション。これが実は一番大事!)
 参加者が主体的に楽しむ中で交わされる勢いのある会話。その中から新しいアイデアが生まれる。その勢いのまま、ひとりひとりが得意分野を自己申告し役割分担が決まっていく。話はどんどん膨らんでいくといいます。その場でやれる人が見つからなくても、人材が足りなくても、知り合いで協力してくれる人に声をかけるなどして、どんどん話は進んでいくそうです。
 「実現できないアイデアの方が断然多い。それでも楽しいし、失敗の中からまた新しいアイデアが生まれますから。」と語る谷地沼さんの笑顔の瞳には、目標を持って楽しみながら活動する明るい人柄がそのまま映っているようでした。

 

誰もが集まれ、楽しく過ごせる新たな地域の「居場所」

 地域の子どもたちに温かくておいしい食事を提供している「いわぬま・こども食堂+」は、2018年2月にスタートしました。今、岩沼に新しいつながりを生む場として定着しつつあるこども食堂+には、どのような人が参加し、どのように運営しているのでしょうか。その取り組みを紹介します。

取材先:坂本久子さん(いわぬま・こども食堂+ 代表)
取材日:2019年11月28日
取材・文:稲垣智子

 安心して楽しく食事ができる場

 「いわぬま・子ども食堂+」(以下、子ども食堂+)は、毎月1回、みやぎ生協岩沼店で開催しています。住む場所、年齢、性別、収入を問わず、参加資格は誰にでもあります。
 会場に入ると、3つの長テーブルに所狭しと並ぶ料理が目に入ります。この日のメニューは、メンチカツ、かぼちゃの煮物、ふろふき大根、鮭と野菜の石狩スープ、カラフル野菜サラダ、唐揚げ、シュウマイ。出来立ての温かいものをバイキング形式で提供しています。参加者は好きな料理を好きなだけ盛り付け、その日初めて会った人たちとも同じテーブルを囲み食事をします。
 初めての参加者にもボランティアさんたちが声をかけ、話をするきっかけを作り、参加者同士が打ち解けやすい雰囲気づくりをしています。この日初めて参加した豊田さん親子は、「誰でも参加できると友人に勧められて来ました。「忙しくて食事を作る時間がなく、低価格でおいしい夕食をとれて、とても助かりました。また参加します」と話してくれました。また小学2年生の女の子は、「何度も来ている。ご飯もおいしいし、友達と遊べるから楽しい」と話し、会場の片隅のお絵かきコーナーで遊んでいました。子どもたちが遊んでいる間、親たちは食事をしながら大人同士の語らいを楽しみ、子どもも大人も初対面の人とも臆することなくコミュニケーションをとっています。取材者がお話を聞いたみなさんからは、見知らぬ人もすぐに受け入れ、思いを素直に話している印象を受け、ここが安心して楽しく過ごせる場所となっていることが分かりました。

 

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△初めて参加した豊田さん親子とボランティアスタッフ

住みよい地域を作るきっかけづくりの場として

 スタート以来、毎月1回の開催日には、常に50~60名の参加者があります。食材のほぼすべてが寄付によってまかなわれ、この日買った食材はドレッシングだけで、その購入資金も寄付によるものです。ボランティアスタッフや近くの農家の協力で食材の寄付は多く、食材を集めるのに苦労することはないそうです。多くの寄付により、食事だけではなく参加者が持ち帰るお菓子やみかんといったお土産も用意されます。さらに、いただいた食材を無駄なく活用するために、近隣の子ども食堂3団体と連携し、余った食材を譲り合ったり、情報の共有をしたりと協力体制を築いていて、一団体の取り組みから地域全体の取り組みへと広げています。

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△支援の思いが集まった温かい夕食

 このように子ども食堂+は、子どもたちだけではなく、子どもたちを取り巻く多くの人たちにも関わってもらい、地域に住む人たちが新たなつながりを作る場になろうとしています。「ここが地域の横のつながりを作り、より安心して生活できる環境づくりのきっかけの場所となることを望んでいます。今通っている子どもの親御さんたちが子ども食堂+の運営に関わるようになり、今通っている子どもさんたちが親になっても通ってくる、そんな将来を思い描いています。参加者のみなさまの笑顔を見るのが楽しいです」と代表の坂本さんは言います。子ども食堂+の取り組みは、未来も見据えて、関わる人の輪を広げようとしています

 

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△会場のあちらこちらで新たなつながりがうまれている