地星社のブログ

社会をよりよくする活動を行っている人や組織を支援する宮城の非営利組織、地星社のブログです。

情報収集に図書館を活用する—『図書館に訊け!』

 情報収集は、ネットでほとんど済ませる方も多いことと思います。しかしこの本を読むと、図書館が持つ機能を情報収集にまだまだ活用してないと気づくでしょう。

 本書では図書館を利用して情報を調べるポイントがたくさん紹介されています。著者は同志社大学の図書館に勤務している方で、本の内容もどちらかというと調べものをする学生向けです。しかし、何かしら調査・研究の仕事に携わっている人も読んでおいて損はありません。今は多くの大学図書館が一般利用を受け入れているので、調査や研究する仕事に就いている方は大学図書館の利用者カードを作っておくと、本書で紹介されているテクニックも十分に使うことができるでしょう。

 さて、この本に書いてあったことで、実践してみようと思ったのはレファレンス・ブックを使うこと。レファレンス・ブックには辞書・事典・年鑑などの事柄を調べるものと、書誌・記事索引などの文献を調べるものとがあります。

 私はあまり百科事典で項目を調べるということはやってませんでしたが、ある物事の全体をおおざっぱにつかむには百科事典は確かに便利なツールです。また、百科事典を使うときのコツとして、最初から項目を見るのではなく、索引巻でどんな項目があるか確認してから見出し巻の本文を見るべきとのこと。

 それからぜひ利用してみたいと思ったのがレファレンス・サービス。図書館のレファレンス・サービスの人が、利用者の調べものの相談に乗ってくれるというのは知識としては知っていましたが、その実例というのはよく知りませんでした。この本には著者が経験したレファレンス・サービスの実例がいくつか出ていて、おもしろいと思ったのがこんな例です。

第二次世界大戦中、谷崎潤一郎と永井荷風が岡山県に疎開し、二人が終戦の前日から当日にかけて岡山県勝山市会っていたことが判明している。二人が別れた後、荷風がどの列車に乗って岡山市に戻ったか、その列車とルートを知りたい。

 相談者の方はレファレンス・サービスを利用した結果、見事その情報に到達することができたのでした。レファレンスサービスは、知りたい情報に対し、情報をそのまま教えてくれるというのではなく、何をどう調べたらその情報に辿り着けるか支援してくれる感じです。

 図書館の見方、利用の仕方が変わる1冊。(布田)

 

図書館に訊け! (ちくま新書)

図書館に訊け! (ちくま新書)

 

 

文献リサーチの方法②ー行政が持つ情報を入手する

 NPOが取り組む社会的課題について調べる際には、地元の行政機関が持つ情報も重要になることが多いでしょう。今回はそうした情報をどうやって入手するか、いくつかの方法をご紹介します。


担当部署に電話して訊いてみる

 欲しい情報について、担当の部署の見当がついたら、そこに電話して自分が探している情報があるかどうか訊ねてみるという方法があります。私は宮城県警に電話して、石巻市における運転免許保有者数のデータを教えていただいたことがあります。性別ごとの総数と、24歳以下、65歳以上、75歳以上の免許保有者数がわかるデータでした。本当は年代別の免許保有者数がわかるとよかったのですが、県警でもすぐ出せるような形でそうしたデータを持っていないことがわかりました。


行政の情報室、情報公開制度を利用する

 ほとんどの自治体には情報公開制度があり、情報室を設置しているところも少なくありません。例えば宮城県の場合、本庁に県政情報センター、各地方振興事務所には県政情報コーナーがあり、県政に関するさまざまな資料の閲覧や貸出を行っています。探している情報がどこにあるかわからない場合は窓口の職員が相談対応してくれます。

 情報公開制度は、利用したことのある方は少ないかもしれませんが、実はけっこう便利な制度です。情報公開請求と聞くと、マスコミや市民オンブズマンが、行政の不正や問題を暴くために行うものというイメージがあるかもしれません。しかし、手続き自体はとても簡単で、開示請求できる文書もかなり幅広いです。しかも、原則として公開することになっているのですから、これをNPOの活動に利用しない手はありません。

 手続きの方法は、たいていその行政機関のホームページに掲載されているので、それに従います。来庁しなくても、メールで手続きができる場合もあります。参考として、宮城県の行政文書の公開のページにリンクしておきます。

行政文書の公開 - 宮城県公式ウェブサイト

 

(布田)

文献リサーチの方法①—論文・図書の探し方

 社会調査をするにあたっては、参考になる資料を集めたり、先行研究を調べたりなど、文献リサーチをすることも大事になります。文献リサーチをすることで、リサーチ・クエスチョンを深めたり、最初に立てた仮説を見直したりすることにつながることもあるでしょう。

 ここでは、GoogleやAmazonだけでは探せないような情報の探し方をいくつかご紹介します。

 

学術論文の検索—CiNii

CiNii Articles - 日本の論文をさがす - 国立情報学研究所

 CiNii(サイニィ)は論文・図書・雑誌などの学術情報の検索サイトです。国立情報学研究所が運営しています。学術論文の検索、大学図書館所蔵の図書・雑誌の検索、博士論文の検索ができます。学術論文と聞くと難しいイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、NPOが社会調査をする上でも有益です。

 検索してヒットした論文は、タイトルと著者名、掲載雑誌名と号数が表示されます。中にはウェブ上でPDFで読めるものもあります。ウェブ上で読めないものについては、後述する複写サービスを使ってコピーを手に入れるとよいでしょう。

 

論文のコピーを家にいながら入手する—国立国会図書館の遠隔複写サービス

遠隔複写サービス|国立国会図書館―National Diet Library

 国立国会図書館の存在は知っていても、そこで遠隔複写サービスが利用できるということはあまり知られてないのではないでしょうか。CiNiiで検索して読んでみたい論文が見つかった、でも掲載雑誌を所蔵している図書館が近くにないという場合にとても便利です。国会図書館は、日本で出版される図書・雑誌をすべて収集・保存する図書館なので、CiNiiで見つけた論文のコピーはほぼ間違いなく手に入れることができます。

 遠隔複写サービスを利用するには登録が必要です。個人もしくは機関で登録します。団体として調査に力を入れるのであれば、NPOで登録するのもよいでしょう。

 

大学図書館を利用する

 大学図書館も、最近は地域への開放を進めていたり、学外者が利用できるケースが増えているようです。自治体が設置した図書館に比べて、専門書や学術雑誌が多いのでぜひ情報集めに上手に活用したいところです。

 以下は、東北大学付属図書館本館と尚絅学院大学図書館の例です。

東北大学付属図書館本館

http://www.library.tohoku.ac.jp/main/sub-guide/gakugai.html

尚絅学院大学図書館

http://libwww.shokei.ac.jp/g_resident.html

 

図書館のレファレンスサービスを利用する

宮城県図書館|レファレンス受付

 こういう情報を探したいのだけれども、どの資料にあたればいいのかわからない・資料が見つからないというとき、図書館のレファレンスサービスを使うという方法があります。ウェブからレファレンスサービスを利用できる図書館もあるので、必要に応じて上手に活用するとよいでしょう。

 

(布田)

リサーチ・クエスチョンを立てる②—問いの立て方

 「問い」が重要だと言われつつ、多くの社会調査のテキストでは問いの立て方についてそれほど詳しくは説明されていません。そこで、問いの立て方の方法として、新QC七つ道具から親和図法、連関図法を紹介します。それぞれの手法の詳細は、書籍やインターネットの情報を参考にしてください。

親和図法

 親和図法は言語データから情報をまとめていく手法で、やり方はKJ法に近いです。NPOのスタッフや関係者で数人のグループをつくり、あるテーマについて問題だと感じていることを自由に話し合ってもらい、そこで出た情報をひとつずつカードに落としていきます。そして、内容が近いカードを集めて親和カードをつくり、情報をまとめていく作業を繰り返して、親和図をつくります。このようにして問うべき問題をいったん絞り込みます。

連関図法

 連関図法は、問題と原因の構造を探る手法です。問うべき問題が決まったら、連関図法を使ってその問題が発生している要因を抽出し、さらに要因を掘り下げていきます。一通り連関図ができたら、全体をチェックして、関連のある要因どうしを矢印で結びます。そして、矢印が多く出ている要因や、矢印が出ている根底にある要因に注目し、主要因を突き止めます。

 主要因とつながっている問題が、原因(主要因)と結果(問題)の関係になっています。よって、その問題からリサーチ・クエスチョンを立てていくことができるでしょう。

 図解なしに、文章だけで説明したので、これだけだとわかりにくいと思います。いずれ機会があれば、実際の例を元に説明したいと思いますので今回はこれでどうかご勘弁を…(布田)

参考:

chiseisha.hatenablog.jp

課題の見える化のために②―『頭がよくなる「図解思考」の技術』

 「課題の見える化を図ろう」とあちこちで言われていますが、では実際にどうやればいいかということに頭を悩まされている方も多いと思います。本書は、図解で情報を整理し、構造化するための方法を紹介したものです。図解と言ってもあまり難しいやり方ではなく、基本は四角と矢印を使ったもの。その組み合わせで、複雑な情報も図解でわかりやすく示していきます。

 図解は、自分の頭の整理のためにも有効ですが、自分の考えを相手に伝えるときにかなり強力なツールとなります。四角と矢印だけの簡単な図でも、口頭だけの説明や文章での説明よりずっとわかりやすさ、伝わりやすさが違ってきます。NPOも事業計画書、事業報告書などで、事業の図解をもっとしてみるとよいのではないでしょうか。

 手法自体はそれほど難しいものではないので、ぜひ試してみることをおすすめします。実は地星社の事業計画書や事業報告書でも、なるべくこれらの手法を取り入れて、図解できるところは図解するようにしています。ただし、会議や講義での逐次のメモを図解方式にするにはセンスと慣れが必要で、そのレベルに達するのは私にはなかなか難しいようです。(布田)

 

[カラー改訂版]頭がよくなる「図解思考」の技術

[カラー改訂版]頭がよくなる「図解思考」の技術

 

 

課題の見える化のために①―『新QC七つ道具の使い方がよ〜くわかる本』

 QCとは品質管理(Quality Control)のこと。品質管理の手法の中に、QC七つ道具と呼ばれるものと、新QC七つ道具と呼ばれるものがあり、本書は後者の解説本です。

 QC七つ道具はパレート図やヒストグラムなど、主に数値データを扱う手法です。それに対して新QC七つ道具は、言語データを扱う手法になります。いずれも課題の見える化を図って、課題解決につなげていくためのツールで、製造業を中心に使われてきたようです。新QC七つ道具の方は言語データを扱うので、多くのNPOにとってもなじみやすいと思います。

 本書で取り上げられている新QC七つ道具は、以下の七つになります。

  • 親和図法:情報をまとめて集約する
  • 連関図法:問題の構造を明らかにする
  • 系統図法:課題の解決手段を具体化する
  • マトリックス図法:事象と事象の関係性をまとめる
  • アロー・ダイヤグラム法:工程の管理ポイントを明らかにする
  • PDPC法:計画進行上のリスクとその回避策を明らかにする
  • マトリックス・データ解析法:多くの変量のデータを縮小して見やすくする

 最後のマトリックス・データ解析法は、この中で唯一、数値データを扱う手法になっています。

 社会調査との関係で言うと、リサーチ・クエスチョンを立てる際に親和図法や連関図法といった手法が活用できそうです。調査に限らず、NPOが事業を進めていく上でもこれらの手法は使えると思います。本書はそれぞれの手法について、営業販売部門、事務企画部門、設計開発部門、技術製造部門での活用例を示しながら解説しています。初心者にもわかりやすく、読みやすい本です。(布田)

 

図解入門ビジネス新QC七つ道具の使い方がよ~くわかる本 (How‐nual Business Guide Book)

図解入門ビジネス新QC七つ道具の使い方がよ~くわかる本 (How‐nual Business Guide Book)

 

 

リサーチ・クエスチョンを立てる①―記述の問いと説明の問い

 NPOが社会調査を行うということは、取り組んでいる(あるいは取り組もうとしている)社会的課題についてわからないことを明らかにしようということです。そこで、何を明らかにしようとするのか、調査にあたっての問いである「リサーチ・クエスチョン」を立てることが重要になります。

 リサーチ・クエスチョンの形式は大きく分けて2つあります。一つは、「~はどうなっているか?」という記述の問いです。もう一つは、「なぜ~なのか?」という説明の問いです。不登校をテーマにすると、例えば、記述の問いは「◯◯市の中学校での不登校出現率はどうなっているか?」、説明の問いは「◯◯市の中学校での不登校出現率が平成××年を機に急増したのはなぜか?」といったものが挙げられます。

 記述の問いは、実情を明らかにしようとするものなので、説明の問いよりは比較的明らかにしやすいでしょう。説明の問いは、因果関係、すなわち物事の原因に迫るものなので、明らかにするにはそのための方法が必要になります(のちほど改めて説明します)。NPOが社会的課題の調査をする上でより本質的な問いになるのは、原因探求である説明の問いの方です。そうは言っても、実態がよくわかっていないから対策が不十分である課題も多いですし、説明の問いを立てるにも記述の問いとその答えがしっかりしていることが前提となりますから、記述の問いもおろそかにはできません。

 リサーチ・クエスチョンをよりよいものにしていくためには、「問いを育てる」という観点が必要になります。先に社会調査の進め方を紹介しましたが、実際にはこの通りに段階を踏んで順に進むとは限りません。むしろ、仮説をいったんつくってみてからまた問いを立て直したりと、手順を行ったり来たりすることがしばしば起こります。文献リサーチや簡易なインタビューなどでアプローチできるような記述の問いはどんどん明らかにしていきながら、リサーチ・クエスチョンをより本質的なものにしていきます。

 とは言え、調査のプロジェクトをつくって実行するなどの本格的な調査をやるのでなければ、もっと気軽に自分の知りたいことをリストアップするくらいでも十分です。(布田)